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春の訪れの輝きと冬の静かな尊さ

ムーミンたちは冬眠する。
だから冬を知らない。



けれどある冬、家族みんなが眠っている中、ムーミンだけが目を覚ましてしまう。
また眠りにつくてことができず、ムーミンは初めて知る冬の世界におびえる。しかも一人きりだ。寂しくて仕方がない。




けれど、ムーミンだけが冬を起きているわけではない。冬の生き物たちがそこにはいた。
冬の彼らは、ムーミンがいつも過ごしている仲間たちとは違って、そろって愛想がない。静かに過ごすことをよしとしている。




最初は冬の世界に戸惑って時には怒りもしたムーミンだが、だんだんと彼らに心を分けるようになる。
いつもお客さんでいっぱいのムーミン屋敷の子らしく、ママが眠っている間も彼らをもてなそうとする。




そして、ついに春が近づいてくると、不思議なことに、冬が終わってしまうことを寂しく思うようになっている。
なんといっても、春が近づいてくる様子の描写が素晴らしい。
待ち遠しかった春の輝かしさといったらない。
春のあたたかい風を感じられるほどだ。




一人で冬を超え、春の訪れを体験したムーミンが、もう以前の彼とは違う。
うれしくなってひとりになりたくなったムーミンは、春の海を見下ろしながら冬っだった時の景色を思いだす。
その背中はひとまわり成長している。




トーベ・ヤンソン  山室 静/訳「ムーミン谷の冬」
(2011、講談社文庫)