Top

誰かの仕事に対してありがとうございますと意識して言う

社会人になってから、まとまった時間が過ぎた。
だからだろうか、働くことについて考えるようになっている。



唐突だが、自分は食べることが好きだ。
常においしいものが食べたい、と漠然と思っている。
特に疲れている時が顕著だ。肉体的と言うより、それは精神的なものだ。



母には、「東京にいるんだから、おいしいものなんていっぱいあるでしょう」と言われる。
だが、そういこうことではないのだ。
おいしいものは、確かにたくさんある。味には満足するが、自分が言うおいしいものとは、味に限ったことではない。
むしろ、実家に帰って食べるご飯のほうがおいしいと感じる。なぜか。



本の中でパン屋さんが紹介されるがこうある。
「ここで売られていているのは、パンの形をした別の何かだ。お腹だけではなく心も満たされる実感がある。そんな食べ物は、街には滅多にない」
おおいに頷いた。自分が感じていることはまさにこれだ。



食べ物でも、本でも住むマンションでも、サービスでも。
部屋には、街には、誰かが作ったものしかない。自然だって、本当に人の手が入っていないものは少ない。
そして人は不思議と、その作り手がどれだけ心を砕いてそれを作ったのか感じてしまうものだ。



そしてまた、自分たちはなぜ毎日あんな満員電車に乗って会社に通っているのだろうか。
「「仕事」を買いに会社へ通っている」という一言に、目をみはる。
また、「そこで支払っている対価はなんだろう。それは「時間」である。そして時間とは、私たちの「いのち」そのものである」と続く言葉に、さらに絶句する。



そのとおりだ。だとしたら、もっと考えるべきじゃないか。



西村佳哲「自分の仕事をつくる」
(2009/ちくま文庫)