傷跡がいくらきれいになったとしてもそれは消えない
食べることは、生きていくうえでの基本だ。
だから、戦場にもコックはいる。
第二次世界大戦中のアメリカ軍のコック兵の少年が主人公だ。
周りの熱に浮かされるようにして入隊し、向いてないと気づいた彼は、特技である料理を生かそうと途中からコック兵になる。
特技兵とも呼ばれるコック兵など、戦闘シーンはけして多くはない。
工兵部隊や衛生兵、補給兵など、いわゆる後方支援部隊組でおこる謎が描かれている。
まず、忘れがちな後方部隊の話である点が面白い。
戦うことだけでは軍隊は進まない。
補給が途絶えれば簡単に全滅してしまうし、生活空間ごと軍隊は移動する必要がある。
寝る場所を組み立てては取り壊してを繰り返しながら進む。
もちろん戦場だ。医師は絶対だ。
そして、食事。食べないと戦えるわけがない。
そんな、戦場においてもそんざいする日常の中で、ものが消えたり人が消えたり。そんな謎が発生する。
それを個性豊かなキャラクターたちが、それこそ青春活劇のように謎を解きながら話は進む。
けれど、死と隣り合わだ。その世界はけして楽しいだけではない。非情だ。
本当に、あっけなく人が欠けていく。驚くほどあっけないのだ。
謎解きはあんなに頁を割いているのに、誰かが欠けるのは一行で終わる。
それが、本当の世界なのだと思う。
深緑野分「戦場のコックたち」
(2015、東京創元社)