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私は「ターン」してやしないかと点検しないといけないや


なんだかもったいなくてとっておいた本から元気をもらいたくて、手に取った。
とったら、うっかり睡眠時間をとられて寝不足だ。でも、満足だ。




主人公の彼女は、ある日事故にあう。だが気がつくと、自宅の座椅子の上だった。一日前の。
そして、その世界には彼女しかいなかった。彼女は定刻がくると、どこにいようともなにをしていようとも一日前の座椅子を上に戻ってしまう。
その誰もいない世界で、150日それを繰り返した彼女の家に、電話がかかってくる。



「ターン」。
タイトルどおり、誰もいない世界を繰り返すとしたらと考えたら…恐怖しかない。しかも完全に一日前に戻ってしまうので、例えば日記も残せない。記憶だけが上書きされていく。



普段、ひとりになりたいと思いがちだが、もちろんそれは誰かがいてこそ成り立つ気持ちだ。孤独とは、誰かに話したいことがあっても、聞いてくれる誰かがいないことだと彼女は言う。
そうしないと、自分の中に生まれた何かは、消えていくだけだ。そのうち、生まれることさえやめてしまうかもしれない。だって、生まれても仕方なくなってしまう。



さて、こんな「ターン」するということは、現実には起こらない。でも、本当に?
彼女は、作中の最後の最後にあることに気づいて、この「ターン」から実は抜け出すのだが、その抜けだせた理由に、自分はガツンと頭を殴られたような気がした。本当に。



これじゃあ、自分はまったく「ターン」している。自分の毎日は「ターン」だ。
こんなことではいけないと思った。



「時」というのは不思議だ。何もしなくても過ぎ去っていくし、短く感じたり長く感じたり。でも、生きているとは「時」を失っていくことだ。
じゃあ、その前もって与えられている「時」をどう使うかだ。
それこそ、「ターン」するかしないか。自分次第。



あいかわらず、すごい物語だった。読めてよかったと思う作品との出会いは幸せだ。それにしても、本当に作者が描く女性は魅力的に過ぎる。






北村薫「ターン」
(新潮文庫、2000)