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悲しい悲しいと自分に泣いてみせればいい

もちろん、この本を買った時は、悲しみにくれていた時期だ。



大げさなことなのはわかっているが、それでも一番に悲しんでいた時期だ。
間違いないし、忘れていない。



それもあって思わず買っていわけだが、長らく放置していた。
逆に読めなかったのかもしれない。
身構えて、ちゃんとしたところで読まないといけないような気がしていたが、久々に読もうと思って鞄に入れて、実家に帰る電車の中で読んだ。



悲しみといっても、たぶんいろいろある。程度も様さまで、人の悲しみを聞いたら、なんだそれほどのことかと思うこともあれば、自分はなんて軽率に悲しいなんて言ったんだろうと恥ずかしく思うこともあるだろう。



それでも、悲しいものは悲しい。
人は、置かれた場所で、それぞれ悲しみを感じている。
人の悲しみを笑ってはいけないし、きっと、自分の悲しみも笑ってはいけない。


だから、あの日この本を持って帰って、棚にさしこんでその存在を感じ続けていた自分を笑わないでやろう。



先人たちも、そうやって、言葉に悲しみを表現してきたから、その言葉に勇気をもらったりできるのだ。




若松英輔「悲しみの秘儀」
(2015、ナナロク社)