
この小さな神社にたどりつくために、あの出来事があったのだと思う
実家近くにある桜を見たくて、早起きしてもどった。
朝からとてもとてもいい天気だった。
駅から普段は乗らないバスにゆられ、停留所から歩いて母校の小学校をとおる。
桜の多い学校で、背の低いバスケットゴールやジャングルジムに驚く。
近くのお寺には、一本で立つ古くて大きな桜がある。語りかけてきそうな気配がある。
実家からも見える桜並木のある公園は、小さな子供連れやお年寄りが散歩している。
それを東屋に座って、ぼうっと眺めた。静かで、穏やかで、帰ってきたなと思う。
足を伸ばして、またバスに乗って桜の名所として知られる公園に行くことにする。
その途中で、子供の頃から通い詰めた大好きな図書館に寄って、懐かしい本の背表紙を眺めてはついつい読んでしまう。
昔からあったお店がかわらずにそこにある。
父が好きでよく買ってきていたお団子屋さんで草餅を買う。
公園に向かう途中で、小さな神社をとおる。
一本だけある桜の下にベンチを見つけて、ひかれるように座る。
草餅を食べながら、桜の天蓋を見上げる。一人で独占して、贅沢だ。都内ではありえない。
本当に、桜は下から見ると綺麗な木だ。
そのまま、なにをするでもなくぼうっとしていた。
お昼は何がいい?と聞いている母親の声が横の家から聞こえて、団地のベランダに干した布団の様子を見に出てくる人の気配がし、雀がすぐ近くで鳴いている。
いつまででもいたかった。もう少し歩ければ名所として有名な公園があり確実に込み合っているだろうに、ここはこんなに静かだ。
たまたま歩いた道で見つけた。
立ち去る時は名残惜しくて、思わずお礼を呟いていた。