
長旅には読書したい欲と車窓を眺めていたい欲が交差する
小泉八雲、あるいはラフカディオ・ハーン。
そして、もうひとつのあるいは。へるん先生。
小泉八雲、名前だけは知っている。なんの授業で習ったのか、おそらく国語の授業で習う中の一人に、その名はあった。
その程度だから、驚くほど彼についての知識がなかった。
ではなぜこの本に惹かれたかと言えば、冒頭のページに、ハーンの足跡をたどる鉄道路線の図があったからだ。
地図のある本に弱いのは子供の頃からである。
ハーンは、壮絶と言ってもいいほどの幼少期を過ごし、隻眼で、もとは極貧のルポライターであり、紆余曲折あって日本で教壇に立ち、執筆しやがて帰化する「へるん先生」と呼ばれていたという。
貧弱だった私の知識ががらっと崩れたようだった。
それでも、彼が昔の日本人たちの気質を愛していたことぐらいは、なんとなく知っていた気がする。
万物に霊が宿ると信じていた頃の私たちだ。
だが、それも急速に近代化するうちに消えていっている。
なんとなく、それじゃいけないんじゃないかと思ってはいるのに、スピードのはやい街にいつしか思考は停止する。
著者は、ハーンが当時たどった鉄道を想像しながら乗っている。
まず、そこが素敵だ。誰か過去の人の足跡をたどるような旅に憧れる。
そんなふうに研究してみたい先人がいるというのは、楽しいものだと思う。
芦原伸 「へるん先生の汽車旅行 小泉八雲と不思議の国・日本」
(集英社、2017)