椅子があるのがきっと見えなかったんだねと言う
椅子を持った人が何食わぬ顔で手招きしていた。
いいから、こっちに来て座りなよ、と言った。
ここ数年、仕事場において戦ってきた自覚がある。
負けてたまるかと目を吊り上げ、気をとがらせて、まわりには敵しかいないと思いながら毎日過ごしていた。
そうしないとやっていけないような現場だった。
それが、数日前に、ふっと軽くなった。
それまで敵だと思っていたものが去り、また、守りにきてくれた人がいた。
驚いた、本当に楽になったのだ。
自分で気付いていないだけで、本当はずっと椅子を探していたのかもしれない。
と思った。思ったので、ふらふらとその椅子に座った。