何十色も入ったパレットをウキウキと広げる
夢中で読んでしまった。
氏の作品で印象的なのは、服装の描写だと思う。
特に、女子の。
何色のどんな柄の、どんな服を着ている、というのが実に細かく描かれる。
しかもその色は、赤とか青とかじゃない、例えば「シトロンイエロー」とかである。
申し訳ないが、どんな色かぴんとこない。
けれど十分に、黄色では駄目なのだ、と分かる。
この主人公の彼女は、この場面の彼女は、この色の服を着る人なんだな、と伝わってくる。
この描写だけ見ていると、とても男性作者とは思えないのだが、逆にこれこそ北村さんだとも思う。
冬のオペラでも、服装の描写から彼女の覚悟が伝わってくる場面がある。
服装の描写だけで、伝わることはとても多い。
謎解きは相変わらず冴えわたっているが、人の怖さ、そしてそれを怖いと思う日との優しさは健在だ。
私は、それに会いたくて読んでいるのかもしれない。
しんとした、悲しみが流れている。
それでも、と思う。
北村薫 「冬のオペラ」
(2000、中央公論社)