初めての武者小路実篤である。
とかく、小説でも漫画でも映画でもなんでも、恋愛を扱う時に盛り上がる題材は「三角関係」である。
昔から飽きもせず、人々はこれが好きだ。三角関係がないと、むしろ味気ないくらいだ。
その中でも多いのは、親友同士の男子が同じ女子を好きになってしまう、という構図かと思う。
それは、私が一応、少女漫画で育ってきたせいかもしれないが。
とは言え、大多数の人が教科書で夏目漱石の「こころ」を読んできている現状を鑑みれば、あながち的外れでもないだろう。
実篤の「友情」も、その構図から外れてはいない。
主人公の男子が、ある女子を好きになる。その恋の悩みを親友の男子に打ち明ける。
さて、渦中の女子はどうかというと…。たぶん、その後の展開は予想を裏切らない。
そうと分かっていながら、電車の中でクライマックスに差し掛かっていた私は、うっかり降りるべき駅を逃した。
おそらく、そうなんだろうなと思いながら、最後、胸のうちをあける彼女の手紙のやりとりに夢中になっていた。
自分の想いを、どうやっても相手に伝えたいという意思に、思わず我が身を振り返るばかりだ。
そしてまた、寂しい寂しいと、人間の本質の部分、きっと誰もが抱えているその寂しさを吐露する彼にも気持ちが移る。
作中にも「こころ」を彷彿とさせる描写があるくらいに同じ構図をとりながら、「こころ」とは真逆の三角形を描いている。
「こころ」にはどうしても重いイメージが尾をひくが、「友情」は青春の誰もが通ってきた道のような溌剌ささえある。
やっぱり、いつの時代も恋愛ものは「三角関係」に限るなと思うばかり。
武者小路実篤 「友情・初恋」