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絵を描いてよと言われて初めて、君の睫毛の長さに気がつくような

例えば。
朝寝坊して、トーストをくわえて家を飛び出し、道の角を走って曲がったら、かっこいい男の子とぶつかる。

 

という、使い古された、けれど共通言語みたいに伝わるものの一つとして、教科書の隅にパラパラ漫画を描く、というのもあると思う。
それをまさか、小説で見つけるとは思わなかった。

 

そう、この本の隅には、走る女の子と、後ろから追いついてきて並走し、そして抜き去って行く男の子がいる。
思わず、パラパラとしてしまう。

 

その女の子は、走ることとが大好きだ。しかも、裸足で走ることが好きだという。
この本のもう一つの特徴は、女の子が語る散文詩で書かれていることだ。
それは、走るリズムになっている。

 

女の子がもう一つ好きなことは、絵を描くこと。欲しいものは絵の道具。
ある日、学校から絵の宿題が出される。りんごの絵を毎日1枚ずつ、100枚になるまで描きなさい、というもの。
最初まさかと思っていたけれど、彼女は、その宿題をするにつれて、あることに気がつく。

 

そして、彼女の家族に新しい命が生まれる。
同時に、おじいちゃんの死が近づいていることも分かる。

 

女の子は、毎日走りながら、絵を描きながら、命の最初と最後に目を凝らしている。

 

特に、おじいちゃんの存在が魅力的だ。
おじいちゃんは、弱くなったように見えて、強い、大切なことを教えてくれる。

 

 

この表紙のりんごは、いったい、何枚目のりんごだろう。

 

 

シャロン・クリーチ(もきかずこ訳) 「ハートビート」
(偕成社、2009)