はじめまして
九月一日。
日本の多くの学校では、新学期が始まる。
夏休みの間、朝夕の街から姿を消していた学生たちが戻ってきた。
彼らが夏休みの間にすっかり慣れてしまった朝の電車は、途端に白い学生服であふれかえり、やっぱりすいていたんだなと思いだす。
そして学校帰りの夕方、育ち盛りの彼らは家に帰るまで我慢できずに、ホームで何かを食べていたりする。
例えば、おにぎりとか。
このエッセイ集にはたくさんの掌編が入っているけれど、その中の一編から、このタイトルは付けられている。
氏の大切な思い出であり、日々の暮らしと仕事のうえで大切にしている指針だという。
「おにぎり」とは、不思議な食べものだ。
ほかほかの白いご飯でもじゅうぶんおいしいけれど、「おにぎり」になっただけで、なぜか嬉しくなってしまう。
やっぱり、自分が幼い頃に、にぎってくれた人を思い出すからだろうか。
盛夏を過ぎ、秋の気配が朝夕に零れ出す新学期。
お米やのコラム、始まります。
松浦弥太郎 「おいしいおにぎりが作れるならば。「暮らしの手帖」での日々を綴ったエッセイ集」
(集英社文庫)