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今から珈琲淹れるから待ってよと

私はなんとなくあの場所を、秘密基地、みたいに思っているふしがある。

 

そこはれっきとした会社の事務所であり、そこのお兄さんはパソコンから顔をあげておもむろに珈琲を淹れだしたりもするが、もちろんしっかりと仕事をしているし、ひょっこりとガラス扉から顔をのぞかせる人達はラフないでたちだがもちろん遊びに来たわけではなく、仕事の話をしにやってきている。

 

自分が、いわゆる会社員でスーツの男性陣に囲まれ、時間きっちりに仕事を始め、お昼休みには消灯されたフロアでデスクに突っ伏して束の間休み、定時に帰るかというとそうでもなく残業をこなし、みたいな毎日を送っているので、自分とは違う仕事の形態の中にひっそりと身を置いていた経験は興味深いものだった。

 

いや、あの空間は、腕一本と腕一本がぶつかりあう緊張感があり、一つの仕事が出来上がっていくのはドラマ的ですらあった。

 

 

 

電車が少し遅れただけで(遅れていなくても)殺伐とする駅を、人の波に上手にのることだけを考えて歩きながら、なんてこの波は怖いんだろう、と足がすくみそうになった。

 

そうすると、珈琲を淹れに立つ後姿を思いだし、さて、あの秘密基地みたいな居心地のいい空間に迷い込めないかと思ったりする。
あそこで振る舞われる珈琲が、秘密基地の仲間に入れてもらえたようで、とても好きだ。