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彼らがひっそりと生き続てくれていることを願ってしまう

初めて読んだのは、高校生の時。
好きすぎて、友人に無理矢理押し付けたことのある唯一の本。

 

 

それ以来、著者の本を貪るように読んだ。
当時、私が読みたかった本を書いている著者に出会えて、それこそ世界が広がったことを覚えている。
だから、どんなに他の本で賞をとろうがどうしようが、やっぱり私はこの本がずっとずっと一番好きだ。

 

不思議な能力を持った一族の連作集。
それだけ聞けば、ありがちな少年漫画(もちろん、それも嫌いじゃない)を連想するかもしれないが、まるで違う。

 

当時、まだ中学生を抜けだしたばかりの自分は、その年齢時代特有の、能力者モノに少し抵抗を持ち始めていた。
世界を救いつつも、能力を持ったが故に苦しむ姿、みたいな漫画ばかり、あの頃の年代にはあるものだ。
と言いながら、そもそも、恩田氏の作品を初めて手にとった。
なにに惹かれたのか、覚えている。あとがきだ。

 

私は、あとがき、ないし解説をまず軽く読んで、買うか買わないか決めるタイプだ。
この本もそうだった。タイトルに惹かれてとる、解説がついていた、目を通す。
そのタイトルが、こうだった。

 

「もう人間でいたくないあなたに」

 

 

 

本書に出てくる能力の呼び名は和名だ。
おそらく柳田國男氏の遠野物語を意識したのだろう、東北のどこかをルーツをする一族は常野一族。
それがまず、彼らは特に能力を誇示するわけでもなく、ひっそりと穏やかに生活しているだけであり、ちょっとした呼び名があった方が都合がいいだろう、くらいの感覚でつけたんじゃないか、と思えてくる。

 

けれど世の常、彼らの能力を利用しようとする輩が出てくる。
そしてそれは、悲しい結末を引き起こす。

 

でもそれは、ありきたりな筋書きと片付けてしまってはいけない。
そんな悲しいことになるのは、そもそも世界が歪んできているから、と静かに伝えてくる。
みんな、気付いているはずなのだ、気付かないふりをしているだけで、世界は少し、おかしい。

 

それでも、常野一族は静かに戦い続けている。
優しさを持ち寄って、来るべき日に備えている。

 

この帝国に生まれてきたのは、別に間違いでもなんでもないんだ、お祈りを聞きながら、思う。

 

 

恩田陸 「光の帝国 常野物語」
(2000、集英社)