小さな可愛らしい足跡が私の家に帰って行くのを見つけた
猫好き、というわけではないけれど、猫の優しさに触れる最近である。
猫好きの方が読むと、少し辛いのかしれない。
なぜなら、メインは、保護している猫の話だから。
保護とは何だと言えば、捨て猫を一時的に保護して預かっているということ。
捨て猫だから、人間不信で、大概ひどく衰弱している。
だから、猫と楽し気に戯れている描写は少ない。猫は人を信じていない。
著者は彼らの気持ちを汲んで、優しい気持ちを惜しげもなく与える。
少しずつ、彼らが著者の家を敵地ではなく自分の家だと感じるようになっていく過程は、読んでいて著者と同じ気持ちになる。
といって、こういってはなんだが、著者は聖人君子というわけでもなく、仕事をさぼり昼からお酒を飲んだりもするようなところもある人だ。
だからだろうか、文章はとても愛嬌があって読んでいて楽しい。
そして、猫たちの表情や台詞の描写がとてもいい。
本当にそんな顔してるのかしら、とか、よくそんな台詞を思いつくなぁと笑ってしまう。
けれど、心をくだき共に暮らして入れば、本当に、猫たちはそんな顔をしていて、そんなことを言っているんだろうな、と思う。
猫も人間も一緒だ。
同じ人間だって、笑っていても本心で笑っているかなんて知れたものではない。
言っていることに一滴の嘘がないなんて幻想だ。
それを、親しくなっていくことで消していく。
何も言わなくても、表情や態度でだんだん分かるようになる。
猫も隣人なんだ。
自然体の猫たちを写した写真がまたとびきりよくて、会いたくなってしまう。
町田康 「猫のあしあと」
(2007、講談社)