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バスの一番後ろの席に一列になって皆で座る

普段、バスにはほとんど乗らない。
電車より時刻表どおりに来ない点が苦手で、また、行先を間違えてもホームの反対側に行けばいい電車のようにはいかない点が怖い。

 

乗るとしたら、観光地によくある、観光用の循環バスの類。
あの、タイヤの真上のせいで、膝がひどく窮屈なあの席が、なぜかけっこう好きだったりする。
その時の、ちょっとわくわくする感じを思いだした。

 

 

本作の舞台はバスだ。
主人公は、老若男女。場面も、通勤通学、通院、買い物帰り、実に様々。まさかの逃亡劇もある。

 

電車と比べて、バスは乗客に一体感がある、ような気がする。
電車はとても多くの人を一度に乗せて、電車専用の道を駆け抜けていくが、バスはそうはいかない。

 

首をぐるりと一つ回すだけで、だいたいの乗客は把握できるコンパクトさ。
停留所にちびちびと停まるのんびりさ。
バス専用じゃない、他の車と混然一体となって走る道路。

 

電車だったら、よそ見をしていても、乗客が自分一人しかいないように見えても、必ず停まると安心していられるが、バスは気が気がじゃない。
並んでいるのは自分一人、もし気づかれないで通り過ぎてしまったらどうしようなんて、ちょっと不安になって、まだかなまだかなと来るほうの道に向かって首を伸ばしてみたりしてしまう。

 

 

普段は電車通勤だが、金曜の夜だけバスで帰るOLが出てくる。
我ながら面白みがない性格と言っているように、どうやら会社でも、いてもいなくても気づかれないような人らしい。
だから、バス停で待っている自分の前にバスが停まったこと、自分が人に見えていることが分かってほっとしてしまう。

 

そんな彼女の孤独はよくわかる。いや、人なんて、きっと皆独りぼっちだ。ただの一人とも、感情を共有できないのだから。
つかの間の、一人の時間。誰もが素の顔で座っている。

 

 

 

バスを待つ時間は、自分が確かにいることを確かめる時間でもあるのかもしれない。

 

 

 

石田千 「バスを待って」
(2016、小学館)