上を見上げなら歩く束の間
お花見で、苦い思い出がある。
別にブルーシートを敷くような本格的なお花見じゃなく、目黒川沿いの桜がとても綺麗なことを前の年に知っていた私は、その年、高校からの友人たちを目黒川にぶらぶら歩くお花見に誘った。
私は、彼女たちが、その桜の光景に、自分と同じように感嘆するだろうと思っていた。
嬉しそうに足を止め、桜を見上げ、思わず写真を撮り出すだろうと思っていた。
けれど、彼女たちの反応は薄かった。
感情の高まりがなかったとすら言っていい。
かろうじて言うには、花筏を見下ろし、目黒川の川の流れがどっち向きだな、ということぐらいだった。
彼女たちは自分たちのことを、誤解を恐れずに言うなら、「男脳」だと評していた。
私はその時初めて、満開の桜に感じる感情は人それぞれだと思い知ったものだ。
自分と同じ感度で桜を楽しむ人が、かつていたということが、実は尊いことだったと。
それ以来、私は一人で桜を見に行っている。