桜のその横と下の満開を棄てたくない
桜に群がるように、どこの公園にも、並木道にも、人があふれていた。
素晴らしい晴天だ。無理もない。
特に、小さな子供連れの多いこと。多すぎて困った。
後ろから、随分と短いピッチで走ってくる音が聞こえた。
私を追い越して行ったのは、二、三歳の男の子だった。
走っては立ち止まるを繰り返す彼を、母親が走って追い越して行った。
これは危ないな、と思って、私は道の逆側に行こうと、立ち止まった彼を追い越そうとした。
けれど思いのほか彼はすぐに走りだし、結果的に、私は彼の足を引っかけるようにしてしまい、彼は転んだ。
後から思えば、なぜ私は前から追い越そうとしたのだろう。後ろ側から行けば良かったのに。
助かったことに、彼は泣きだしたりはしなかった。
きょとんとした真ん丸の目で、私を見上げただけだ。
それが、堪えた。
母親も、彼が勝手に転んだと思ったのか、私には全く注意を払わず、彼に立つように促すだけだった。
それもなんだか、堪えた。
私は、「ごめんね」と彼に謝って逃げ出すように去ってしまった。
満開の桜にばかり目がいくが、そんなことはない。
雪柳も木蓮も満開だ。
満開なのだ。