最果てまで行かなくちゃいけないんだ
街にはお店で溢れ、物で溢れているというのに、欲しい物は驚くほど見つからない。
安売りの声につられそうになるが、それは欲しい物ではない。
そんな中、他の人にはただのガラクタでも、自分だけが必要としているものを置いているお店があったら、なんて心強いんだろう。
そしてそこは、必要な人しか気づかないような世界の窪みのようなアーケードだ。
それにしても、そんなアーケードに読書休憩室があるなんて、なんて魅力的なんだろう。
そんなところがあればいいのに。
けれど、途中から、なんとなく気付いていた。
彼女の作品は、物悲しい気配を常に漂わせている。
それでいて、優しい。彼女は、誰にでも優しい。
世界の窪みで生き続ける人たちに、いつもそっと寄り添ってくれる。
もしかしたらそのアーケードのお店にある品物は、私がどこかに置き忘れてしまった大切だった物かもしれない。
小川洋子 「最果てアーケード」
(2015、講談社)