子供はみんな耳あてをしていたよ。君もしてたんだろうなぁ。可愛いなぁ。
暖かくなってきたと思ったら、冬が、雪が戻ってきた。
自分のこれまでを振り返ると、自分はどうも、北生まれの人に惹かれる傾向があるらしい。
関東で出会っているから、雪から逃げてきたという人もいたけれど、大概は都会に働きに出てきたという人たちだった。
雪に育まれてきた故に生まれる人柄が、奥底に共通してある気がする。
自分は、関東生まれの関東育ちだ。
たまに降る雪にわくわくする。
けれど同時に、明日の朝の電車の心配をしてしまう。
車社会になってから、人は雪を厭うようになったという作者の言葉に、なるほど、と思った。そうかもしれない。
車なんて必要ない、歩いていけばいいだけの子供の頃は、ちっとも明日の心配などしなかった。
朝起きて、ひどく静かだと思ってカーテンを開けると、真っ白な異界になっていることに胸が高鳴った。
でも、決してその高鳴りが消えたわけではない。
電車が遅れてもいいように早く出なくてはと急ぎつつ、けして嫌だなとは思っていない。
吹雪いている仕事場のビルの外を、ついつい眺めてしまう。
作者は、ただただ雪を愛していて、その愛情は本の装丁にも表れていて、綺麗な本だ。
異界に惹かれる人たちは、あまり現世が好きではない人たちだ、とも作者は言う。
作者が笑う姿が想像できるようだった。
高田宏 「雪恋い」
(新宿書房、1987)