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無条件に信じていてくれる存在

存在は知っていたくせに読まずにいたため、読んでいない作品はたくさんある。
1作読んで心をつかまれ、以前の私なら既刊を次々に読み倒していっただろうに、なんだか勿体ない気がして、他の本に寄り道しながら読んでいる。

 

読みだせば、僅かな時間も拾って読みふけった。

 

どうしてこんなに優しいのだろう。
でも、優しさだけではない残酷さも描いている。
けれどその残酷さは、優しさ故に気付く残酷さであると感じる。
だから、やっぱり優しい。

 

表紙の三人の女の子の、なんて可愛らしいことか。
この三人の女の子に、私は既に会っていた。初めて読んだあの作品の、あの親子だった。
なんて嬉しかったか。

 

女で珍しいのかも分からないが、私は全くと言っていいほど実家に連絡しないし、あまり帰らない。
一人暮らしだ。出社してもお昼は一人だ。夜も一人だ。
休みの日は誰ともしゃべらず、自分のためだけにご飯を作り、一人で食べる。そんな日も多い。

そんな時、大げさかもしれないが、なんでこんなに一人で生きているんだろうと思うことはある。けれど。

 

 

私がまだ中学生だったろうか、母がテレビを見てさらりと零した言葉で覚えているものがある。
拉致問題だった。朝、元気に学校に行く我が子を見送って、それっきり。
他国に連れ去られ、取り戻すすべがない。相手が大きすぎる。

 

それを見て、私は軽く「怖いなぁ」ぐらい、言ったんじゃないだろうか。
それを受けて、母は食器を片付けながら「本当だよ、そんなことになったらお母さん気がおかしくなっちゃうよ」と言ったのだ。

 

それを、私はずっと覚えている。
読んでいて、それを思いだすのだ。

 

 

それにしても、あんなに良い男、現実にいるんだろうか。
いるはずだ。と思いながら生きていきたいもんだ。

 

 

北村薫 「ひとがた流し」
(新潮文庫、2009)