
本と目が合う
ある意味、初めて買った本だ。
ありふれたことでしかないのは承知だが、それでも私は随分と毎日くよくよしていた。
そんな時、私は何が好きかと考えて、考えた時に浮かんだのは本だった。
いや、考えるまでもない。それぐらしかなかった。
本屋に行けば大丈夫だと思った。
本屋を特集している雑誌で、その個人でやっている本屋はとても小さくて、小さいけれど惹かれて、一番家から近かった。
行ってみると、思ったよりも小さかった。
けれど、小さいのに、どの棚を見ても面白いのだった。
それまで私はほとんどチェーン店しか行ったことがなく、それとは全く違う棚だった。
どこを見ても楽しくて、端から端まで、背伸びをし、しゃがみこみ、なめるように見た。
そこから買ったのは二冊だった。
一冊は、灰と黄のツートンカラーの布製のハードカバーの本。
作者も知らない。私小説なんて買ったこともなかった。初見で買うにはやや高かった。
それなのにどうしても目に入り、何度か手に取りその度に棚に戻し、それでも離れがたくレジに持っていっていた。
それが、「星を撒いた街」だった。夏葉社の本だった。
してやられたと思った。
島田さんは、いつまでも本棚に置いておきたい、美しい本を、大事に大事に作ろうとする人だったのだ。
私は中身など何もわからないのに、本の装丁に惹かれ、きっと気に入るに違いないと思ってしまったのだ。
本は美しい。
電子書籍だなんだと言う。もちろんいい面もある。
けれど、私は紙でできた本が好きだ。なぜなら、美しいからだ。
本を愛する島田さんは、人も愛し、本からも人からも愛される人だった。
本好きなら皆が思っていることかもしれない。
けれど、島田さんが本に寄せる想いは、びっくりするほど私と同じだった。
この同じ気持ちが芽生えたのは、あの、くよくよとしていた日々があったからだった。
それ以前の私は、本は好きでも、こんな気持ちではなかったと思う。
私はまた一歩、本と友人になったのだった。
島田さんが夏葉社を立ち上げた年、私は新社会人だった。
島田潤一郎 「就職しないで生きるには21 あしたから出版社」
(晶文社、2014)