冬に見るコートに
「もしも」はない。
先達達が口を酸っぱくして言い続けていることだ。
でも、「もしも」と思う瞬間は訪れる。
狂おしいくらい、心の奥底から思うことはある。
思えば思うほど、それは手が届かず。どうしても届かず。
時が過ぎることだけを願って、なんとか夜をやり過ごしていく。
時が過ぎれば、その狂おしさがすり減っていくこともまた、先達たちは教えてくれている。
少し大人になっていれば、自分でもそれは知っていた。
でも、その人は自分の一部に既になってしまっていて、ずうっとそれを片隅に飼いながら生きていくんだろうと予感することも多い。
生活の中で、いくつもその一部が残したものが息づいている。
例えば、月だったり。
満月の夜の度、自分を思いだしくれたら、生きていけるような気がする。
誰でも、きっとそんな月があるんだと思う。
話さないだけで。知らないだけで。
そう思ったら、なんて切なくて、綺麗な月か。
ニコラス・スパークス(雨沢泰 訳)「きみを想う夜空に」
(2007、エクスナレッジ)