あっという間にあっけなくその樹はなくなった
実家にいた頃。
混む大通りを避けて、よく通る公園の横の細道があった。
車がすれ違うことが出来ないほどに狭い道だ。
その道の片方は斜面になっていて、斜面をぐるりと樹が覆っている。
その樹は桜だ。
春になると、ひっそりと満開になる。
その時期は、その細道を通るのが楽しみだった。
だが、ある日。工事が始まった。
なんの工事だろうと思っているうちに、樹がなくなっていた。
あっという間に、痛々しい切り株だけが残っていた。
あっという間だった。
なぜ、あんなに綺麗な桜並木を壊せるのか理解できなかった。
その後、そこには大きなホームセンターが出来上がっていた。
散歩の途中で、民家の塀に緑の看板を見つけた。
区の「保存樹」の看板だった。
見上げると、それは桜だった。
この樹はなくならないのだ。ほっとした。