受験の時に使ったのは赤本
この本を手にとった時のことはよく覚えている。
仕事場への通勤電車が辛くなってしま、都心で一人暮らしをすることにした。
その時の仕事場は、東京のど真ん中で。
私が就活をしていた頃から続いている駅前の工事はまだ続行中で。余談だが、最近やっとそれも終わった。
お昼時にランチに出るが、さすが値段が違う。
前の現場は、隣の県の奥の奥だったせいで、余計そう感じる。
そして私は浮かれて、仕事帰りに通えるような習い事を始めたくなった。
ヨガなんてどうかしら。女子っぽい。
体験に行ったヨガスタジオには、本棚があり、ヨガに限らず色々な本が並んでいた。
本好きだ。当然のように物色し、そして、惹かれた。
ごくごく薄い本だ。
そのままソファに座って、私は本に没頭しかけたが、クラスが始まってしまった。
後ろ髪をひかれる思いでクラスを終え、そして私はまたソファに戻ってその本をとった。
そんな本だ。
私にとっては初めての引っ越しで、まだまだ物がないまっさらな部屋に、まっさらな地図の知らない街だった。
そこに、どんどん色をつけなさいと言われたような赤い本だ。
好きなものに囲まれて、おいしいご飯を食べて、コットンの服を着て、街を歩いて。
高橋みどり 「ひさしぶりの引っ越し」
(2005、メディアファクトリー)