ちょこんとちゃぶ台の前に座って展示品に気を配っている
細い路地を抜けて行った。
探検気分の私の前に現れたのは、小さな古い家だ。
引き戸を開けて靴を脱ぎ階段を上る。足場が狭く急な階段だ。昭和の家らしい。
二階の手前には子供部屋があり、この家で暮らしていた姉妹のおもちゃや日記が展示されている。
箪笥の中に、お人形の服や道具やお風呂まで!、姉妹の日記とともに収まっていた。
そっと引き出しを開けるが、わくわくしてしまう。展示の仕方がたまらない。
小さなピアノのおもちゃもあり、鍵盤を押すと音がした。
ちょうど二階には私一人だったので、にやにやとしながら堪能した。
しかし、楽しいこどもたちの話だけには終わらない。
昭和初期のこどもたちをめぐる、飢餓や身売りの話など厳しい状況についても展示は語る。
それでいて、そこには年季の入った絵本も並んでいる。
私が大好きだった「ぐりとぐら」も並び、同じ絵本で育っていることに、言いしれぬ嬉しさを感じる。
そうやって、私は展示に集中していたが、二階にはスタッフ専用の部屋があるらしく、がさごそとしている音を感じていた。
私がちょうど後ろを向いている時、その部屋の扉が開き、誰かが出てきて隣の部屋に留まっているのが気配で分かった。
スタッフの方だろうと思って気にせず、ピアノを鳴らし、よし一階に下りようとその部屋の前を通った。
部屋には陽の光が差し込んでいる。
部屋の真ん中に置いてあるちゃぶ台に、こちらを向いて一人の女性がちょこんと正座をして何か細かい作業に夢中になっている。
何も考えずに「こんにちは」と挨拶をした。
「こんにちは」と顔を挙げて挨拶を返してくれた。
我が目を疑った。
スタッフの方ではなかった。
まさかこんなところでお会いできるとは思わず、ふわふわとした気持ちで階段を降りた。
夢かと思いながら一階にいたスタッフの方に確認すると、笑って頷いた。
お近くにお住まいなので、ふらっといらっしゃるんです、と。
昨日、ちょうど先生の話をしたからだろうか。
原画展の部屋に行くとたくさんの人だ。
「黄色い本」の原画だけ、一コマ単位で切り貼りしているのが印象的だった。
ユリイカで、一コマずつハサミで切って配置を考えたと読んだが、そのとおりだった。
昭和のくらし博物館
東京都大田区
『高野文子の描く昭和のこども原画展』2017年