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私の名前を知っていますか

「天から尽きることなく降ってくるような、祝福されているかのような喜びである」(抜粋)

 

 

木でも花でも、星座でも。鳥でも。
毎日、自分の側にある自然の名前をたくさん知っている人に憧れる。
名前を知っているというのは、すごいことだと思う。
それだけで、生きていけるような気がする。

 

 

鳥と言ったら。
鳴き声に顔をあげたら、ころころとした雀が飛んでいったり。
駅のホームをのんびり歩いて行く鳩を目で追ったり。
烏がすぐ近くにいるとちょっとびくびくしながら通り過ぎたり。
鎌倉に行っては、高いところを悠々と風にのる鳶を見上げたり。
池に浮かぶ鴨の群れをのぞいたり。

 

 

作者は極寒の地にわざわざ出かけ、時には日本を飛び出し、渡り鳥たちを追っていく。
それでいて、話は鳥のことだけにはとどまらない。
人間も、決してひとつのところにはとどまらないものだ。

 

 

一編ごとに出てくる鳥たちの紹介がされている。
よくある注釈のように、図鑑から引っ張ってきただけのような素っ気ない注釈ではない。

 

作者の鳥たちへの愛情があふれんばかりの注釈だ。
友人を紹介しているようにしか読めない。

 

それを拾い読みするだけでも、ひとつの話になるような。

 

 

 

梨木香歩 「渡りの足跡」
(2010、新潮社)