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Afternoon Teaに乗って

母方の祖父母の家に滞在するときは、もちろん休暇中だ。
子供の頃は、よく母の運転するミントグリーン色のAfternoon Teaに乗って行ったものだ。

 

 

休みの日だから、当然、朝寝坊するものだと思っている。
けれど、自分の家じゃないせいか、言うほど朝寝坊できずに居間に下りていく。
すると、祖父が浴衣姿で新聞を読んでいる。
祖母が作った朝ごはんを母が机の上に並べている。

 

祖父母の家の朝ごはんは、自分の家とはまったく違っている。
うちの朝はトーストの洋風だが、祖父母の家は、朝から煮干しで出汁をとった味噌汁とご飯、焼魚が並ぶ。
子供の自分は、それにひどく驚いたものだ。

 

 

しっかり朝食をとった後は、祖父はどこかに消えてしまう。
そしてまた、昼頃に帰ってくる。祖父は畑で仕事をしているのだ。
お昼を食べた後は、横になって体を休ませる。
夕方になると、健康のために家の周り(家のすぐ後ろは山なので坂道だ)を散歩する。

 

 

その後は夕食。お風呂に入って、一日が終わる。
うちの家は父が宵っ張りなので最後なのだが、一番風呂は当然、祖父だ。

 

晩年、ずいぶんと体が弱ってからも、畑仕事と散歩はしなくなったが、無い歯で三食しっかりとご飯をたべ、お風呂にも一人で入っていた祖父。
小学校の校長まで務めた祖父は頑固であり、たまに会う孫である私の弟が無精髭も剃らずにいたことに眉をとがらせる厳しさもあった。
昔の人だから、母などの家族に礼を言うようなこともなかったが、晩年は世話をやく母に何度も礼を言ったりと、人とは、こうやって最期を過ごすものなのかと思った。

 

亡くなったのは、自宅で入浴中。
数日前から、いよいよ食事がとれなくなり、胃の中は空っぽの状態。
最後に、身を清めながら眠るように。
看取った伯父は、お義父さんらしいと何度も言った。

 

 

祖父のルールを綴った掌編を読んでいて、そんな自分の祖父のことを思いだした。
朝早く起きて、三食しっかりと食べ、畑で働き体を動かし、お風呂に浸かって早く寝る。
淡々と、毎日を自分のテンポとルールで。

 

 

 

堀井和子 「私が好きなルール」
(幻冬舎、2003)