雑談が聞きたい
旅先で買った本は、忘れられない。
もちろん、旅に出る時は選びに選んだ本を鞄に忍ばせる。
本を読むために旅に出るようなものだ。
旅の途中で本を読むのが楽しみで仕方がない。
つい脱線してしまった。
実は出版社がずいぶんと近くにあることを知ったのは後からで、出会いは神戸だった。
一杯の珈琲をおともに読み切る感覚を大切に考案されたシリーズ。
私は、神戸からの帰りの新幹線に乗り、自分の座席におさまった途端に、いそいそと買ったばかりのこの本を取りだした。
おじさんが麦酒をあおっている横で、もくもくと読みふけり、東京に着く前に読み終わってしまった。
子供の頃の私は、男の子になりたかった。女の子である自分を嫌がっていた。
私は両親と弟の四人家族だが、母に言われて忘れられない言葉がある。
「お姉ちゃんの服がどれかわからないから、自分で洗濯物とってって」
まぁ、洗濯物だけ見ると、男が三人いるみたいだったってことだ。
私は弟と同じような服を着ていた。
肯定できるようになったのは、ここ5、6年前からだ。
それでも、まだまだ持て余している。
一人で帰る新幹線の中で、私は本を読みながら雑談に頷いていた。
雨宮まみ・岸政彦 「愛と欲望の雑談」
(2016、ミシマ社)