前髪に手を伸ばす。そろそろ行こうかなと嬉しくなってしまう。
隠れ家のような場所だ。
何気なく入った路地に、たまたま見つけた。
スタッフは二人だけ。少し驚くほど広い店内の奥にシャンプー台が二つ。
席は三つだけで、広さに対してとても贅沢な使い方をしている。
人に髪を洗ってもらい、乾かしてもらうのは気持ちがいい。
数をこなすお店だと、荒れた手の方もいてこちらが切なくなってしまうほどだが、ここはそうじゃない。
二つあるシャンプー台はタイプが違い、完全にリクライニングするタイプと首だけ倒れるタイプ。
おそらく、わざとそうした。お客さんの好みに合わせられるように。
前回、私は初めて首だけ倒れるタイプを使ってみたけれど、途中から苦しくなってしまった。
そして今回、「〇〇さんはこちらでしたね」と、寝る方のタイプを笑って示す姿が嬉しかった。
かけてくれるリネンの膝掛の端には、手縫いの赤い糸。
お店のどこを見ても、いいな、と思ってもらいたくて。と店長は言っていた。どの調度品もセンスがいい。
その棚の中に、私は見知った本を見つけた。高野文子さんの「るきさん」。
店長さんに聞いてみれば、女性のスタッフさんがセレクトした本だという。
もっと聞いてみれば、その本を知ったのは菊池亜希子さんが紹介していたから。
私もそうだったので驚いた。きっと、同じ雑誌を見ている。
近くの公園から拾ってきたという秋が可愛らしく並んでいる。
ますます好きな場所になってしまった。