
後姿を鏡で確認する
足元を見ながら歩いている自分に気付いている。
気付いているけれど、顔があげられない。
コートのポケットに手を突っ込み、ストールに顔を埋め、黒い集団にもまれながら、のっぽなビルに向かう。
退社した途端に仕事のことは忘れる。休みの日は一切仕事のことは思いださない。
少し前まではそうだったんだけれど、最近は思いだすことが増えた。お風呂で膝を抱えてやり過ごす。
寝る前とかに、あの人の口調を思いだしてしまって、寝られなくなるんだ。
と言って辛そうにしていた背中を思いだす。
あの人は、あの時こんな気持ちになっていたんだ。今の私がそうだ。
唇をかみしめて、自分ではしょんぼりしているつもりが、端から見ると口角が上がって笑っているように見える。
なんてことを知ったのはつい最近のことで愕然としたものだ。
得だと思えばいいのか損だと思えばいいのか。よくわからない。
でも、あの人が見送ってくれているはずだから、顔をあげて歩いた。肩が落ちないように。
唇を噛みしめて、あの角を曲がるまで。元気なふりをしていた。そう見えるはずだと知っている。
私はそれが見たくなくて、いつも目をそらしていた。背中を見送るのは寂しい。