Top

《私》の成長に自分の成長を夢見る

恥ずかしながら、出会ったのは最近だ。
一箱古本市に回るようになってから、読む本の幅が明らかに広がった。
一人では買わなかっただろう本を、店主さんと話すことで手に取る。

 

北村薫氏もそうだ。
この本もいいけど、初めて北村氏を読むなら、これじゃなくて、あっちの本がいい。
と、その一箱店主さんは、自分の箱ではない箱に連れて行ってくれた。忘れられないエピソードだ。

 

読んでみれば、著者は私と縁深くて驚いた。
作中に、駅から遠い女子高と、駅の目の前の姉妹校の男子校が出てくる。
まさかと思って、著者紹介を見た。思った通りだ。私の母校がモデルに違いない。

 

忘れられないシリーズの一つになった。
本当に恥ずかしい。母校の図書館にあったはずなのに、なぜ読まなかったんだろう。
けれど、こうして出会えた。本は、待っていてくれるものだ。

 

《私》が可愛くて仕方がない。描かれた世界が優しくて、愛しくて仕方がない。
本への愛にあふれている。作者へもだ。

 

本の読み方の楽しさだけでなく、謎を解いていく楽しさを教えてくれる。
私が、著者紹介を調べたことも、小さな小さな謎解きと言えなくもない。

 

作中で、「本を手に取る」ということはどういことか書いている。

 

大きく頷いてしまった。だから、家の本棚から本があふれてしまうのだ。
読みたいだけなら、こうなってはいない。

 

 

北村薫  「太宰治の辞書」

(創元推理文庫、2017)