秋になると会いたくて仕方がない
金木犀に、ずっとずっと会いたかった。
実家にいた頃、玄関を開けた途端に届いた金木犀の香りに、嬉しくなったことをよく覚えている。
秋といえば金木犀だ。小さな子供の時分には、近所の公園の背の低い金木犀をよく摘んでは瓶に詰めていた。
けれど東京に出てきてから、そんな秋に出会えずにきた。
どこに行けば金木犀に会えるのだろうと思っていた。
なのに、おかしい。甘い香りにびっくりして振り返った。
マンションを出てすぐそこに、金木犀はいた。ひっそりと。背の高い金木犀だった。
おかしい。去年はまったく気づかなかった。
実家にいた頃の私じゃなかったんだろうか。やっと私は戻ったんだろうか。
実家を出た理由は、通勤が辛かったからもあったけれど、本当は違う。
家族のいないところで泣きたかった理由のほうが大きい。
ずっとずっと、会いたかった。
ようやく会えそうな気がする。