会えなくても 言えなくても
朝起きて、カーテンをあける。薄く曇った朝だった。
声に出さずに、おめでとうと呟いた。
その人とは、よく川沿いのベンチに座って、いつまでもしゃべっていたせいか、季節に関する思い出が多い。
その年の梅雨は、梅雨らしく雨が多くて、雨宿りする場所を探してばかりいた。
だから、最近の空梅雨に対して、あの年は雨が多かったのになと思いだす。
真夏でも、川沿いのベンチには、川を渡ってきた涼しい風が吹くのを知った。
秋の金木犀は誰でも知っている花の名前だと思っていたら、そうじゃなかった。
朝、雪が降って澄んだ夜空には、冬の大三角が見えた。
二人で見上げながら、夏の大三角の星の名前を自慢げに言い合っていたことを後で知った。
目黒川沿いの桜を見に行くのを楽しみにしていた。
でも、春の思い出だけはない。
今の仕事場への道は、それはもう立派な桜並木があるのだけれど、膨らんでくる蕾を見るたび、咲かないで欲しいと思った。
桜が咲かないで欲しいなんて思ったのは、生まれて初めてだった。
一日違いの誕生日の人を理由にして、好きなケーキを食べた。